この三者を並べて論じることは通常ありませんが、子育て・教育の本質に関して共通点があり、より良き子育てや教育を考える上で有益と思いますので私は敢えて行います。
教育には、大きく分けて、「教え込む」子育て・教育法と、子どもが本来持っている「発達しようとする生命力」を「引き出す(educate)」子育て・教育法があるのです。
「教え込む」子育て・教育法は昔から幅広く実践されていますが、知育偏重であったり、子どもに「きつく」「厳しく」「怖く」接する傾向があります。
一方、ルソーの『エミール』に始まる教育論、福澤諭吉の子育て観、モンテッソーリ教育法の子育て・教育は、子どもの能力を「引き出す」子育て・教育で、「人には、本来自分を自ら発達させる力(DNA)がある」という性善説に立ち、人的環境である大人の役割は「環境を整備し、環境との関わり方を示す」という立場です。また、「子どもには子ども独特の発達があり、子どもを矯める様な子育ては良くない」としています。
- 第一話 モンテッソーリの教育法の紹介
- 第二話 ルソー(Jean-Jacques Rousseau)の紹介 子どもの発見
- 第三話 福澤諭吉の育ち、教育観、『福翁自伝』 諭吉型人間はどの様にして育つのか(以降はプレミアム会員限定)
第一話 モンテッソーリの教育法の紹介
コロナ禍の状況でもGAFA(ガーファ)といわれるIT業界の勢いは止まらない。いやむしろ加速している。これにマイクロソフトを入れてGAFMA(ガフマ)と称することもある。
注)【G】Google(グーグル)、【A】Apple(アップル)、【F】Facebook(フェイスブック)、【A】Amazon(アマゾン)【M】Microsoft(マイクロソフト)のことを指します。
これ等の企業の創業者の受けてきた教育には共通点がある。アップルを除き、他の企業の創業者は皆モンテッソーリ教育を受けてきたのだ。例えば、グーグルの創業者であるラリー・ペイジとセルゲイ・プリン、アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾス、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ達だ。創業した組織はコロナ禍の中でも業績を伸ばし勝ち組となっている。ジャンルは異なるが日本では、将棋の藤井聡太7段がモンテッソーリ教育を受けたことで注目されている。藤井聡太は史上最年少の棋聖となった。
モンテッソーリ教育について述べた書籍は空の星ほどありますが、私はここではモンテッソーリ教育と福澤諭吉とルソーを敢えて対比し、共通点を抽出してみたいと思います。
実は三者とも類似しているところが多いのです。その様なことを論じる人を私は誰も知りませんし、モンテッソリアンからおしかりを受けるかもしれませんが。
モンテッソーリ・メソッドとは
マリア・モンテッソーリは1870年生まれのイタリア初の女性医師で、「モンテッソーリ・メソッド」といわれる教育法を確立した。一方、福澤諭吉は1835年生まれの啓蒙家であり教育者である。ルソーは1712年生まれで、教育論では『エミール』著しました。
西欧では産業革命により人々は「科学的」なアプローチをするようになった。子育てや教育においても然りである。
マリヤ・モンテッソーリは人を生物として、哺乳類として、客観的に観察して、子育てや教育法を構築した。彼女は医師として、科学者として、子どもを観察する実証科学的アプローチを徹底した。また、生物学の知見も応用した。
モンテッソーリの考えは次の通りです。
- 人には乳幼児のときから自ら成長しようとする強い力が内在していて、親の役目は環境を整えてその力を引き出してあげることである(一方的にやらせることではない)。
- 人は自分の能力を成長させる刺激に対して敏感に反応し、それにかかわろうとする時期がある。これを「敏感期」という。その時期にしか現れない現象で、その「敏感期」をとらえてかかわれる環境を用意することが肝要である。(敏感期例。音→音素→文法、比較、分類、統合などの知性etc.)モンテッソーリ・メソッドは知性の敏感期に対応する魅力的・体系的な教具・教材を持っている。
- 人は周囲の環境とかかわることによって成長する。環境とは、自然、人間、自分身の周りの世話、基本的生活習慣、お手伝い、知的な刺激等である。
- 子どもを伸ばす環境とは、進化の過程で、子どもに当然にして用意されている諸環境のことである。(それは「天才児を造る」等のような人為的・不自然なものではない。)
- 人、特に乳幼児は、目的をもって筋肉運動をすることによって学ぶ。目的を持った、筋肉の連続運動は、思考力の原資となる。
- 子どもが外部環境と関わろうとするときに大人は「提示」というテクノロジーを使用する。例えば、子どもが箸の持ち方に興味を持った時、母親は、『見ててね』と言って正しい箸の持ち方を通常の1/3のスピードで、分析的に、ゆっくり子どもに見せる。(このとき母親は子どもに話しかけない。この時期の子どもは、見ながら聞くことがまだできない)。子どもが母親の動作を真似て自分でやるときに、動作の一つずつ思い出して、頭の中で組み立てながら行う。このような作業の一つ一つが思考の原形態であり、頭脳、特に前頭葉の発達を促す。
- 子どもが何かを習得するとき、同じことを繰り返し繰り返し行うことがある。これを「集中現象」という。脳科学的に説明してみよう。子どもがある作業(お仕事)に関心を示したとする。それに関わるとき、天は良くしたもので、ドーパミンという脳内物質を分布する。このドーパミンは子どもの心をわくわくとさせると同時にその作業に集中させる。また、シナプスの結合を促進して、繰り返し行うことでその作業をできる様にする一定のニューロンのネットワークを完成させる。その道のりが「集中現象」である。
- この様な体験を繰り返した子どもはより強いエネルギーで興味のあることにとりかかるようになる。藤井聡太棋聖が、幼児のときにシール貼りに夢中になった体験が、やがて将棋に出会うと、その世界に深く入り込み偉業を成し遂げた。
- モンテッソーリ・メソッドでは子どもは指示されて一斉に何かをやるようことはない。個々人の興味と関心に基づき何かに取り組む。であるから前述した様に、多くのドーパミンが分泌され、わくわくしながら、集中して取り組む。集中するということは前頭前野の実行機能を高めることにもなり、作業(お仕事)を通して、情報の分類、比較、統合、組み立て等の思考プロセスを高めることにもなる。ニューロンのネットワークも完成する。
モンテッソーリ・メソッドについて述べると限りがないが、モンテッソーリの教具がなくても家庭で出来ることが多い。子どもの身の回りのことを自分でできる様に導く、日常の生活習慣を正しく定着させる、お手伝いをさせる、子どもが日常生活とかかわれるように子どもサイズの道具を用意する、子どもを観察して、興味が沸いたことにかかわらせてあげる、知的刺激のある体験ができる様に配慮する、多くの人と関わらせる、自然とかかわる等で、本来は人類進化の過程で普通に存在するものだ。
2020年7月19日
GLE(Global Leader Education)
主宰者 安藤 徳彰