グローバルリーダーの育成(5) ~ 語学学習の敏感期 ~


◊◊ 語学学習の敏感期 ◊◊

文法学習の敏感期(3歳~8歳)

前回では「音素および音韻の敏感期(0歳~2歳)について述べましたが、今回は「文法学習の敏感期」について述べます。 音に対して敏感になることにより、赤ちゃんは単語を認識できるようになります。母親の一語文から始まります。さらに、文章のストリームの中から聞いたことのある単語を識別することができるようになります。これに、知的成熟が伴うと、2語文、3語文の理解へと進みます。このとき、「母親の語りかけ」が子どもの言語発達に大きく寄与します。赤ちゃんは、体内にいるときから、母親の声、肉声を好むように準備されているのです。目の前で起きている事象が、主として母親の肉声を通し言語と関連づけられるのです。生後6ヶ月の赤ちゃんは、自分の名前も分かるし、「パパ」、「ママ」という言葉も分かります。単語の学習も、自分で言葉が言えるようになるずっと前から始まります。単語学習と音の学習は相乗効果があります。運動能力の準備ができると、話す言葉も多くなります。さらに、3歳から6歳にかけて、子どもは言葉と言葉の位置関係にかかわるルール(文法)を急速に取得します。モンテッソーリは、こうした変化は「爆発的」に起こると表現しています。言葉の獲得には段階的に音声から文法へと、夫々に「敏感期」があります。母語以外の言語に対しても言語の「敏感期」は同様に作用します。言語の敏感期を過ぎた時期からの第二言語の取得には限界と努力が伴います。

バイリンガルの脳

幼児教室を長年運営していますと、多くの帰国子女に遭遇します。日本のアメリカンスクールに通っていて私立の小学校受験に挑戦するご家庭もあります。担当の教師に子どもたちの状況を聞きますと、「自分の考えが明確で、表現できる」、「頭が良い」などの肯定的な印象を持っています。もちろん、日本の文化・習慣・季節などを理解していないことが受験には不利になることもあるかとは思います。指導中に好きな女の子のほっぺに「チュ!」をして教師を狼狽させる輩もいます。日本語だけを比べたら、普通の子どもの方が勝るかもしれません。しかし、(英語+日本語)で考えると、普通の子どもより多くの概念を理解し、表現できるのです。バイリンガルの子どもで日本語が乏しいと思われる場合、両親、特に母親の養育態度に問題あることが多いようです。これは、バイリンガルに限ったことではありませんが。言語発達は家庭における豊かな言語環境が必要です。(サリーウォード著 「『語りかけ』育児 0歳~4歳 一日30分間」をお薦めします。) 神経学者カール・キムの研究によると、幼少期からバイリンガルで育った人(前期バイリンガル群)は2つの言語による活動部位が言語中枢であるブローカ野の中で重なっているのに対し、10歳前後から第二外国語を取得してバイリンガルになった群(後期バイリンガル)は活動部位がブローカ野の中で分離していたのです。つまり、前期バイリンガルの人は、2つの言語が一つの言語システムによって運用されているのに対して、年齢が高くなると新たに別のシステムが必要になります。 別の意研究によると、バイリンガルの人は、左下頭頂葉皮質の一部が他の人より大きく(特に前期バイリンガルのケース)、脳の実行機能のテストでも高い点を取ります。バイリンガルの人は、それぞれの言語に合わせて行動を使い分けているため、脳に負荷をかけているのです。そのため、脳の自己制御力が発達します。また、相手に合った言語を選ぶ必要性から、他者視点の取得が容易です。又、二つの情報源があったとき、その違いを判断するとき、ほかのすべての人が使っている前頭前野だけでなく、文法を処理するブローカ野も活動します。認知症になる確率が他の人より四年遅いという研究もあります。 (注1)音楽における能力も、語学と同じようなプロセスで発達します。使われる場所は、側頭葉内の「ヘッケル回」や「側頭平面」と呼ばれる領域にあります。この部分の大きさは七歳までに決まります。これらは脳の構造と能力がよく結びついている領域です。また、楽器を演奏することは、左右の脳を同時に使うため、脳に負荷をかけます。そのため左右の脳を結ぶ脳梁の発達が見られます。脳の注意ネットワークの機能が鍛えられます。ヴァイオリンの鈴木メソッドが早期才能教育に結びつくのと関連があるのかもしれません。バイリンガルの脳への負荷が脳の実行機能向上に結び付くのとロジックが似ています。

文法の敏感期を過ぎてからの英語教育

2020年からの小学校3年に英語導入は韓国や中国に遅れること20年のスタートですが、そのころには韓国、中国はもっと先に進んでいることでしょう。四半世紀日本の経済は停滞していると言われていますが、教育もまた停滞していました。国家に戦略がないのです。 前回のコラムで、アメリカに移住した韓国や中国を母語とする移民の調査では、7歳までに移住した場合はネイティブ並みの英語力(英文法)を得ますが、8歳以降の移民は急速に英語力(英文法)が落ちるという調査を紹介しました。この調査は文法の敏感期以降の外国語取得には限界と困難が伴うことを示しています。国家戦略としてグローバルリーダーを育成するならば、遅くても小学校1年生から英語教育を始めるべきでしょう。そして、ネイティブスピーカーを低学年の音声指導に入れるべきです。今の日本は無駄な公共投資などに多大な予算を投下するのではなく、教育にこそ投資すべきでしょう。


安藤徳彰

About 安藤徳彰

(あんどう のりあき) 慶應義塾大学卒業後、ペンシルバニア大学大学院(ウォートンスクール)にてMBA取得。 ICE幼児教室、ICE私立専門塾などを創業。2014年6月に教育部門の運営を栄光グループにバトンタッチし、株式会社栄光の教育顧問に就任。 2015年10月に株式会社栄光顧問退任