グローバルリーダーの育成(1) ~ 日本の凋落とグローバルリーダーの不在 ~


♢♢日本の凋落とグローバルリーダーの不在♢♢

今回から数回にわたり、グローバルリーダーの育成についてお話します。 今後どの様な方針で子育て・教育をしたらよいのか参考になれば幸いです。

日本の凋落

私がアメリカの大学院(ウォートンスクール)に留学した1977年頃は日本の経済も破竹の勢いで、日本の経営を褒めたたえる経営書も多く出ました。例えば社会学者エズラ・ヴォーゲルのベストセラー『Japan as Number One: Lessons for America』があります。大学院の経営学講義の中でも、著名な教授が「They (日本人)are as clever as we are.」と日本を持ちあげると、クラスの中で日本人学生に対して拍手が自然に沸き起こりました。日本が世界の注目を集めていたのです。 しかし、その後、80年代のバブル景気を経て、バブルは崩壊し、90年代から現在までの四半世紀以上日本経済の停滞が続き、未だ回復の兆しが見えないのです。このまま進むと、幼児たちが40代になる2050年頃、日本は少子高齢化の末に活気が無くなり、GNPの上位はアジア諸国に取って変わられます。 停滞の原因は数多くあります。日本がバブル崩壊で躓いていたころ、世界では地盤を揺るがすような変化が起きていたのです。日本では国家も企業も個人もその変化に対応できず、無策のまま時が過ぎたのです。根本の原因は、それぞれの階層におけるグローバルリーダーの不在、それを生み出した教育改革の遅れです。世界とつながりを持ち、世界の未来図を予測して、世界と対峙してダイナミックに行動するリーダーの存在です。

世界の変化 情報革命とボーダレスな世界

日本のバブルが崩壊した1990年代に、世界の潮流が大きく変わりました。ベルリンの壁の崩壊(1990年11月)、ソビエト連邦の解体(1991年12月)、欧州連合条約の調印(1992年2月)、中国の経済特区の設立(1980年8月)などの政治的・経済的な潮流とともに、情報革命(インターネットの発達等 www.の構築・無料公開 1991年)の進展により、世界がフラット化して、ボーダレスの方向になったことです。 それに伴い社会・経済のシステムに劇的な変化が生じ、多くのイノベーションが生まれました。例えばグローバル・サプライ・チェーンの出現です。メーカーは世界の各地で生産した部品・パーツを最終組み立て工場(例 中国)に集めて、完成品を世界各地の販売組織に届けるシステムです。国際分業はさらにソフト部門にも及び、情報技術を活用して、ソフト部門の業務を海外(例 インド)に委託するオフショアリングの出現があります。ボーダレスの動きはさらに進み、コア事業をアウトソーシングすることもあります。インドの通信会社のバーティエアテルはコア事業をアウトソーシングして世界の携帯電話キャリアへと成長しました。同社はエリクソン、ノキア等にネットワークの設計・設置・運営を任せ、IBMにITをアウトソーシングして独自に開発する時間とコストを大幅にカットすることができたのです。 変革はさらに進みます。ドイツでは「第4の産業革命」が進んでいます。工業のデジタル化によって製造コストを大幅に削減するのです。生産施設をネットにより世界と結合し、グローバルな最適化を図ります。ドイツの総力を挙げて官民一体で取り組んでいます。

グローバルリーダーの不在

トフラーは情報化革命を「第3の波」として世界の変化を予測しましたが、この変化は、ボーダレス・グローバル化・イノベーションと一体化してさらに「第4の波」と言うべき次元へと進化しています。日本はいずれの面においても立ち遅れているのです。 日本が世界に取り残されてしまった原因は、日本のいたるところに存在する閉鎖性、排他性、保守性等によるものですが、それらを打ち破って世界と対峙していくグローバルリーダーが不在でした。 グローバルリーダーの定義はいろいろあるとおもいますが、英語ができるだけではリーダーになるための十分条件ではありませんが、インターネットと英語を通して即時に世界と繋がるため、英語力は共通のインフラとなり必要条件となりました。あらゆる階層において、英語力が生き残りの基本的なアイテムなのです。したがって、個人としても、企業としても、国家としても、生き残る道は、グローバルな力をつけることですが、その前提は英語力です。もちろん、英語力を必要としない職業も存在するでしょうが、選択肢を狭めることになります。現在においても語学力による年収差は顕著で、例えば、「ビジネスレベル以上」の女性の年収は「日常会話レベル以下」の女性の約3倍 といわれています。20年後、30年後の世界はグローバル化が更に加速して、今とは又違う世界になっていると想定されます。 日本の最大の弱点は、この英語力に関して日本は世界に遅れをとっていることです。子育てや教育もその変化を予測して行わなければ未来に対する責任を果たせません。


[1] 「語学力と年収に関する調査」ダイジョブ・グローバルリクルーティング社 平成24年

About 安藤徳彰

(あんどう のりあき) 慶應義塾大学卒業後、ペンシルバニア大学大学院(ウォートンスクール)にてMBA取得。 ICE幼児教室、ICE私立専門塾などを創業。2014年6月に教育部門の運営を栄光グループにバトンタッチし、株式会社栄光の教育顧問に就任。 2015年10月に株式会社栄光顧問退任